建物の形態が決まれば、それを図面として示す事で、より具体的・客観的に形態を捉えることになります。確定した建築の基本的な形態を示すために使われる基本的な図面があります。配置図・平面図・断面図・立面図の4つの図面がそれです。図面は建築を語る上での重要で主要なコミュニケーションの手段です。考えはあっても言葉を知らなければ相手に考えを伝える事ができないのと同様に、いくら造形が素晴らしくても図面を描くことができなかったりきちんとした図面でなければ建築の内容を充分に伝える事ができません。図面表記には細心の注意を払うようにしましょう。
図面を描くことを製図と言いますが、製図には表記法や各図面間の整合性が求められます。
また図面は基本的に彩色に頼らずに、白黒の線の強弱だけで建築の形態を表現します。建物の躯体である壁や柱などの「切断面の外形線を表す線」、吹抜・階段・腰壁などの「見えがかりを表す線」、椅子・目地・寸法・補助線などの「記号(的)を表す線」の3種類程度は建築形態を図面として表現するために使い分けましょう。線の強さ(線の太さ)は上述の順序に細くなるのが通例です。また通常G.L.ライン(地面の断面線)は最も強い線(太い線)で引きます。より分かり易い表現をするために状況に応じて着色するものであり、色に頼って建築の形態を説明している様では図面とは言えません。まずは白黒だけできっちりとした図面を引くことを心がけましょう。その上で表現を豊かにするために着色するかどうかを判断してください。
図面製図マニュアル:
図面製図マニュアル
関連用語:
配置図
平面図
断面図
立面図
躯体
切断面
G.L.
配置図はその建物が周囲に対してどの様に建っているのかを示す図面です。必ず方位を入れ、等高線、隣家や周辺建物、道路や通路などのアクセス方法、樹木などを書き入れて周辺状況を必ず示してください。周辺の建物を書き入れるだけでその敷地がオフィス街なのか住宅地なのか、またはどの様な自然に囲われているのかなどが判断できます。また設計した建物の屋根伏図(建物を上空から見た立面図のようなもの)、または接地階の平面図を示しておくのが通例です。
配置図 − Site PlanMies van der Rohe, Barcelona Pavilion, 1929の配置図
等高線・隣家・道路などの情報を得るには「都市計画図」という白地図が良いでしょう。地図ではこれらの情報が不十分であるのであまり利用できません。「都市計画図」はどこの自治体にもあります。都市部では1/1500の縮尺で用意されていることが多く、配置図や周辺図として活用しましょう。多くの自治体において個人で入手する事が可能なはずです。どこで入手できるのかは各自治体によって異なりますので、役所の都市計画課や建築指導課に電話をして問い合せれば教えてくれるでしょう。1枚500円から1,500円程度だと思います。
配置図は一般的に都市計画図を1/500などの適切な縮尺に拡大し、それをトレースして作成します。都市計画図そのものに計画を書き込んでも構わない場合もありますが、場合によっては様々な(過剰な・邪魔な)情報が書き込まれていたり、拡大コピーで線が太くなったりし、配置図として不適当な状態になる可能性もあります。
図面製図マニュアル:
配置図の描き方
関連用語:
配置図
都市計画図(白地図)
平面図は、水平のある面で建築物を切断して下を見た断面とその下側に見える形を描きます。一般的にはそれぞれの床レベルから1,000〜1,500mm程度上部の水平面を想定します。まずはその断面となる柱や壁の外形線をしっかりと把握しながら線を引いてください。外形線ですからその輪郭のみを描き、柱と壁などが接している部分の境界線は描きません。このことを怠った図面では、どれが断面線でどれが下側にある形を示す線なのか判断がつかなく、建築の形態を判断することが難しくなります。また窓などのガラス部分の断面表記は、課題で求められる程度の縮尺では、サッシとガラスを表現する3重線で通例描きます。
平面図 − PlanMies van der Rohe, Barcelona Pavilion, 1929
通常上階の平面図は下の階に見えている所も書き入れます。床の目地や家具などの細かい表記は省略されることもしばしばですが、2階平面図にも1階部分の階段や庇などの見える範囲の形態を書き入れましょう。また吹抜などの場合はその吹抜の範囲に一点鎖線で×を書き入れるのが通例です。その場合は吹抜の下の形を省略することが多いです。また逆に、その階の上部に吹抜、床や庇、トップライトなどがある部位はその形状をその平面図に弱い点線で示します。
1階平面図(接地階平面図)には最低限の周辺状況を示すべきです。まちなかの建物であればなおさらですが、どの様な敷地でも周辺の道路とその幅員および植栽や歩道の有無などを最低限示さなくてはなりません。そうすることによってエントランスや中庭、内部空間に至るまで、周囲の敷地状況を取り込んで設計しなくてはならないことに気が付くでしょう。
図面製図マニュアル:
平面図の描き方
関連用語:
地下階の描き方
平面図
断面図は他の基本的な図面とは異なり、設計者が建物のどの部分を見せたいのかということが問われる図面です。平面図は床があればそこを描き、立面図は建物の東・西・南・北の表面を描くのが通例です。しかし断面図に限っては建物のどの部分を描くのかが定まっていません。よく断面図は空間を示す図面だと言われますが、コンセプトや空間をより説明するような断面はどこなのかを考えて、どの断面を描くのかを決めて下さい。ごく稀に柱のある部分や壁の中心線を断面として断面図を描く方がいますが、これは柱の断面線によって空間が分割されているように見えどの様な空間であるのかを分かりにくくしてしまいます。断面詳細を示す必要があるなどのよほどの理由がない限り柱のある部分を断面とするのは避けましょう。
断面図 − Cross SectionMies van der Rohe, Barcelona Pavilion, 1929の断面図
断面図と平面図の差は断面が垂直か水平かということだけです。平面図と同じように断面線をしっかり把握しながら描き、向こう側に見えている柱や階段の形態なども描きます。また主な断面図には平面図と同じように、隣家の高さや土地の高低差、樹木など周辺の状況を書き入れるべきでしょう。また天井懐やパラペットなども断面図に表れます。
図面製図マニュアル:
断面図の描き方
関連用語:
断面図
パラペット
水勾配
立面図は建物の手前を切断面として、建物の見映えを示した断面図と捉えることもできます。表記は断面図とほぼ同じだと考えて下さい。
立面図 − ElevationMies van der Rohe, Barcelona Pavilion, 1929の立面図
地下に埋もれている建物でなければ、一つの建物で最低4つの立面図があります。なにも意図がなければ立面図は南側立面図・東側立面図・北側立面図・西側立面図の4つの立面図を、メインとなる立面図から反時計回りの順で描くことが通例ですが、両側が建物で囲われているような町中の建物ではその立面図を省略する場合もあります。また立面図にも方立(マリオン)などのサッシを書き入れ、きっちりとガラス面の表現を線で表現し、建物がどのように建つことになるのかをしっかりと示しましょう。
図面製図マニュアル:
立面図の描き方
関連用語:
立面図
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04 表現 −設計意図のプレゼンテーションと伝達−