建築を建物として成り立たせるためには機能的(用)・構造的(強)・空間的(美)な構成が不可欠です。それらをきちんと組立てながら、構造的整合性・機能的整合性など調整して現実性を持たさなくてはなりません。建物は実際の空間に存在する物質ですから、具体的/物質的に成立させなければなりません。もちろん重力の制約や雨や風などの自然に対応することや、照明や上下水道の設備まで必要となります。とはいっても課題で行うような基本設計では構造計算や設備計画までをきっちり示す必要はありませんが、それでもコンセプトに従ってどの様に建物を成立させるかという現実性はある程度考えておかなくてはなりません。
少なくとも以下に上げる事柄は考慮し、検討しましょう。
関連用語:
用・強・美
要はその建物や部屋が、そこに宛われた機能の通りに問題なく使用できるかどうかです。少しぐらいの不便は我慢できるかも知れませんが、良くはありません。もちろん機能的に問題があるのは論外です。机が置けない事務室、人が通れない廊下、たどり着けない便所、転回できない駐車場など、役に立ちません。建物は実際に人が使い、そこで何らかのアクティビティが行われます。やたら大きすぎるのも不便ですが、具体的に使用する際に、利便性を満たしてちゃんと機能するかを検討するのは欠かせません。そこで行われるアクティビティを図面上でシュミレーションし、それに見合った寸法とそれらの関係を定めましょう。
関連用語:
アクティビティ
その建物が人に対して危険を感じることなく安全に使用されるかどうかという点も、もちろん検討しなくてはなりません。昨今では防火扉の機能不全、回転ドアの事故、ベランダからの子供の転落事故など、建物の使用上または計画上問題と見なされる事故も多く見られます。例えば、火災などの災害時に避難通路を確保することも重要な安全対策です。大学の設計課題でも、2方向避難など最低限の安全確保として計画に取り入れてなければならないでしょう。
他にも廊下に対して開く扉、避難順路と逆に開く扉、隙間の大きい手摺なども安全上問題です。個人住宅の場合は比較的理解されますが、公共施設などの不特定多数の人々が利用する建物である場合は特に安全管理には気を配らないとなりません。自ら設計した建物によって人が傷つくのを望む設計者はいないでしょうし、もしいるとするなら設計者として失格です。
関連用語:
2方向避難
建物を成立させるには不可欠なものですので、ある程度はどの様に建物を支えるのかを考えておきましょう。構造は様々な方法や技術が考えられ非常に多様ですが、コンセプトに沿ったものを建築家の作品集や建築雑誌などから探しだして参考にしましょう。以下に構造の基本的な事柄を述べておきます。
構造には主体構造の材料に応じて木造・組積造・鉄骨道(S造)・鉄筋コンクリート造(RC造)・鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)などがあり、建物の高さやスパン(柱間距離)に適当な範囲があります。S造は低層から超高層建築まで広い範囲で用いられますが、木造は3階以下、RC造は6〜7階以下の範囲が一般的です。
また材料とは別に構造形式によっても分類があります。基本的なものにはラーメン構造・トラス式構造・壁式構造・吊構造・組積造などがあります。ラーメン構造は最も採用されている単純で基本的な構造形式で多層の水平な床を持つような建物に向いていますが、スパンの長さに限界があり(6,000〜7,000前後が経済的とされる)柱のない大空間を作るのには向いていません。参考までにRC造のラーメン構造の場合、柱の太さはスパンの1/10〜1/12程度で、梁成(梁の高さ)はスパンの1/8〜1/10程度が一般的です。つまり6,000mmのスパンのラーメン構造の場合、柱の太さは500〜600mm、梁成は600〜750mmが一般的な寸法となります。
またラーメン構造の場合は梁が必要となりますので、階段やEVの位置などには気を遣いましょう。梁のある場所に階段は作れません。頭を打ってしまいます。
関連用語:
構造体
鉄骨道(S造)
鉄筋コンクリート造(RC造)
鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)
スパン
梁(梁成)
EV(エレベータ)
設備も建築を成立させるために多くの場合で必要となります。
部屋の天井には梁、照明、空調ダクトや配管などを治める天井懐と言われるスペースが必要です。皆さんが今どこかの部屋にいるならば、天井を見上げてください。恐らく梁や上階の床スラブや床板が見えている事は少ないでしょう。天井が貼られ、それに照明や空調の設備などが配置されていると思います。照明や空調の設備にはもちろん電気が必要であることはすぐに分かることでしょう。
天井懐は建物の規模によって異なるので同じようなコンセプトと規模の建物などを参考にすると良いでしょう。下階の天井からその上階の床までの厚さは、この天井懐と床スラブと構造(主に梁)の取り合いによって決定されます。
また、2階以上や地階などに電気や水道の配管を通すために、パイプスペース(略記号PS)と言われる縦穴が必要です。同じような縦穴のエレベーターシャフトなどと兼用する事もあります。もちろん梁の位置なども考慮に入れなければなりません。
関連用語:
DS(ダクト・スペース)
PS(パイプ・スペース)
天井懐
EV(エレベータ)
屋上や駐車場、道路など、雨のあたる舗装された部分は水平な面がありません。素材やディテールによっても異なりますが、おおよそ1/50程度の勾配は必要です。また陸屋根の場合、屋上部分にはパラペットと呼ばれる止水のための部位が必要です。屋根スラブ端部で立ち上がっている壁のようなものですが、どの図面(主にRC造)を見ても記載されているはずなので参考にしてください。
関連用語:
スラブ
陸屋根
パラペット
水勾配
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02 具現[実践] −図面描写−