建築学習 memo


  1. 環境デザイン演習[建築]デジタル教科書
  2. 建築の設計過程 TOP
  3. 01 条件
    1. 01-1 要因の把握
    2. 01-2 要因の捉え方
    3. 01-3 設計条件の定義
  4. 02 構想
    1. 02-1 コンセプト創出
    2. 02-2 建築計画の検討
    3. 02-3 提案の組立
  5. 03 具現
    1. 03-1 構想の形態化
    2. 03-2 構成の検討
    3. 03-3 図面描写
  6. 04 表現
    1. 04-1 表現する目的
    2. 04-2 素材と表現方法
    3. 04-3 表現の構成

01-1 条件[理論] −要因の把握−


設計条件を設定するためには、まずその設計に潜む諸問題などを見出すことから始まります。それらの要因の中には輪郭のはっきりしているものや不明瞭なもの、中には気付かないものなどもあるかも知れません。これらの要因を設計の始めの段階で発見し尽くすことが出来れば設計者として非常に幸せなのですが、現実的には不可能です。多くの要因はスタディを重ねることや設計を進めることで初めて見えてきたり、または輪郭がはっきりしてくることがほとんどです。むしろ一旦設計をほとんど進めてしまってから条件を整理し直すことが重要かも知れません。とはいえ、この段階で可能な限りの準備をしておくことは、設計作業をスムーズに進めるために不可欠です。また、仮に設計を進める中で予想外の要因が顕れたとしても柔軟に対応できることにも繋がります。設計作業の中で、どのような要因があるのかできる限り予想して準備しておくことは欠かせません。
ここでは、建築設計の要因にはどのようなものがあるのか、具体的に何を考慮していかねばならないのかを示し、スムーズな設計のために役立てて頂きたく思います。
関連用語:
スタディ


一口に要因といっても課題やプロジェクトによって様々です。そしてそれらの捉え方も設計者によって異なります。ここに示す条件などの要因は、ごく一般的なものであって、必ずしもこのように捉えないといけない訳でありません。また、全ての要因を記したものでもありません。しかし設計活動を行う上で非常に重要になる項目ばかりです。特に注意しておきたい一般的な条件として、「課題条件」「敷地条件」「機能条件」「社会状勢」「実現性」「設計者の志向」「コスト」「クライアント」「設計期間」などが上げられるでしょう。最低でもこれらの条件を設計の始めの段階で考えなければ、魅力ある提案を行うことは難しいでしょう。
以下にそれぞれの条件はどのようなものであるかを簡単に示します。要因の整理に役立ててください。

課題条件

大学の課題で設計を行う上で、その課題文や課題内容をしっかりと把握する事はもちろん大前提です。課題条件はその設計で最低限守るべき要因として、また比較的取り組みやすい課題として、目的が柔軟に設定されています。課題条件を取り込んでいるだけでは不充分ですが、それすら取り込めていないようでは魅力的な提案を行うことは困難でしょう。単位を修得すること自体に設計の目的をおいて欲しくはありませんが、そうは言っても課題条件を無視することは大前提を無視したこととなり、要因を考慮しそれらを目的のために取りまとめた設計とは言えないでしょう。
課題文は、そこからさらなる飛躍を行うための土台となるように課題条件を設定しているものです。評価基準や評価ポイントなどを含めて、課題に関わる文章と項目は全て目を通し、隅から隅までじっくりと読み解いてみましょう。そうすれば課題の意図やその設計で取り組むべきことなども見えてくるはずです。
また、多くの課題文は多様に解釈できるように柔軟に設定されています。字面そのままに捉えず、課題文に秘められた裏側の意図を汲み取るように、その意味を考えながら課題文を解釈してください。難しいかも知れませんが、課題の目的とは別にそれぞれの設計者がそれぞれに設計の目的を持つ、そしてその目的の達成の土台として課題条件という要因を取り込む、ということを理想として課題が設定されています。

敷地条件

敷地とは現在・未来を問わず「対象となる場所」という意味ですが、その敷地という言葉にもいろいろな意味が含まれます。簡単に建物が建てられる土地の範囲というだけではなく、敷地という言葉はもう少し広い意味で捉えられるべきです。敷地条件の幾つかの具体例を以下に示しますので、敷地をどう捉えれば良いかを考えるための参考として下さい。

まず考えられるのは広さや形、高低差などといった「敷地形状」という意味でしょう。建物はその敷地の形の上に建てらる以上、その形状や性質に影響を受けざるを得ません。
もちろん土地の範囲を示す敷地境界線の形状も考えられます。しかし建築は決して敷地内だけで完結するものではなく、敷地外の要素も考慮して設計しなくてはなりません。むしろ、目的に最も良く適うためには、積極的に敷地の内外にある要素を取り込んで、または排除していくことが求められます。具体的には、風景を見る窓や、隣の公園と一体的空間として扱ったテラス、太陽の光や風、四季などもそのような例として挙げられるでしょう。これらは土地という物理的な範囲を超えて建築が設計されているということを示す、ごくごく簡単な例です。
また、その土地を取り巻く環境を含んで敷地と呼ばれることがあります。別の言い方では周辺状況や周辺環境と呼ばれますが、その敷地がどのような環境の中にあるのかということも重要な敷地条件の一つです。 具体的な例では、関係する施設までの距離、建物への交通手段やアプローチ法、隣接する建造物、人の動きや活動、人通りの多さ、歩道の有無、樹木の有無、敷地から見える景色などが考えられます。周辺環境や周辺状況から離れて建築がそれ単体で存在することはありません。設計の目的を達成するためには、これらの状況や環境も考慮しなければならないでしょう。
建物はある場所に存在することが運命付けられたものですので、どうしても敷地を考慮して建築を設計しなくてはなりません。このことが時には、制約や限定という形で弱みになったり、また固有解という形で強みであったりしますが、どちらにしても意識しなければなりませんし意識せざるを得ません。設計する者として、最終的に出来上がる具体(建物=モノ)がどこにどのように存在するのか、ということを強く意識するべきでしょう。
関連用語:
敷地 都市計画図

機能条件

目的を実現するには、空間がそれなりの機能を持つことが求められることがあります。
例えば、美術館に美術品を展示する場合、展示空間だけを考えれば良いのではなく、その空間を成立させるために来館者の動線としてエントランス・もぎりなどの諸室、また美術品の動線や収蔵場所として収蔵庫・搬入口・荷解室などのバックヤード、そして展覧会の企画や美術品の調査を行う学芸員室・資料庫などが必要になります。美術館の位置付けや扱う美術品によっては撮影スタディオや修繕室などの美術品を保存するための機能も求められるでしょう。また、それらの場所を用意するだけではなく、それぞれがきちんと機能するように考えなければなりません。位置関係や動線などを把握し、また規模やコンセプトに応じて面積なども計算に入れなければならないでしょう。例え素晴らしい展示空間があっても、それを支える機能がなければ使いようがありません。
関連用語:
コンセプト 動線 アクティビティ

設計者の志向

設計において、むしろ最も重要な要因かも知れません。設計を行うモチベーションでもあり、設計するものまたは設計自体に対する態度がここに見られるでしょう。
カタチを創造する者としての形態への志向、歴史を担う者としての歴史への志向、社会に指針を示す者としての社会への志向、文化を生み出す者としての文化への志向、生活の営みを形作る生活への志向など、設計者の数だけ目指すところがあるでしょう。
しかし、この創造に対する志向は発見は早急にしなければならないというものではありません。まずは在学中に行う設計活動を通して、さらには卒業してからの活動を通して、生涯をかけてその志向を紡ぎ出すべきものです。むしろこの志向を感じ取ることを、大学の設計課題で行うものだと言えるでしょう。それはその人の建築に対する思いに他なりません。そうそう簡単に確信を持てるものでは決してありません。
しかしこれを見つけ出すために、全て課題で、もっと言うと日常に感じる全てのものから、カタチを創造することについて自分なりの見解を持つことを試みましょう。まずは大学での設計課題でとにかく何かに対して取り組むことを行い続けてください。そうすれば漠然と設計者の想いのようなものが見えてくるはずです。

社会状勢

建築も社会を反映し、また社会を作ってゆくものの一つであるので、社会状勢と非常に密接な関係があります。社会で問題になっていること、社会が求めていることなどの課題に対して、取り組むべき機会も多いでしょう。例えどれだけ面白い空間を設計したとしても、社会がそれを求めていなくては独り善がりの設計になってしまいます。都市の昼間人口の空洞化や土地の高騰、コミュニティの問題、環境問題など、社会状勢には非常に多岐に渡る課題があります。建築家として、これらの課題を設計に取り込む、または排除することも必要になってきます。しかし何ら見解を持たずに、無視することはできません。そのためには、常日頃からこのような社会状勢に鋭敏に耳を傾け、知識を蓄え、そして自らの見解を持つように努めましょう。

実現性

実現性と言っても、大学の課題では実際に施工することは求められていません。その前に設計、つまり建築の計画をきちんと立てることが求められます。また、目的にもよりますが、計画は実行される可能性があることが求められるのは当然です。そのためには、構造のない浮遊した物体、社会状勢に反した提案、機能的に使えない部屋、実際に計画した形で存在できないものなどでは実現性はありません。またそれは同時に、クライアントになりそうな人が納得できない提案となってしまうでしょう。実現性がない計画では、設計として不充分であると言わざるを得ません。
しかし、例えば設計の目的自体が未来の都市像や生活スタイルを示すことである場合などは、また異なった見解が必要となります。稀ではありますが、そのような形で提示すること自体に活動の拠点を置いている建築家もいることを補足として取り上げておきます。

コスト(予算)

実際のプロジェクトではコストは非常に重要な設計の条件です。しかし課題でコストは設定されていませんし、見積書を図面と共に提出するということもありません。では、大学の設計課題においてコストをどう考えれば良いのでしょうか。
例えば、低所得者のための集合住宅を設計する場合を考えてみましょう。もちろん、言わずともコストを抑える仕組みを組み立てることも設計条件になるでしょう。あまりに広い占有面積や高価な設備などは実現性に乏しい提案となってしまいます。低所得者のための集合住宅を設計するのであれば、ローコストでかつ魅力的な空間を実現するような仕組みを提案し設計することが、目的に適うための要因の一つとなります。他にも、重要でない箇所での無意味に高価な構造や設備、また逆に、目的に適うために力を入れるべき箇所でコストを気にすることなど、設計の目的を達成するのにそぐわないコストコントロールは避けるべきです。例え非常にハイコストな提案だとしても、そこにそれだけのコストを注ぎ込むだけの説得力と効果が望まれるのであれば良い、ということになります。
いずれにせよ、目的に照らし合わせてコストを考え、現実味ある提案としなくてはなりません。

クライアント

建築設計とは、ある目的を持って建てられる空間がどうあるべきかという指針を示す計画です。計画は実行することが前提ですので、もちろんそれを人々に納得させなければなりません。そうするとクライアントや社会、地域住民など、その建物に関わる全ての人に、どのようにこの空間を捉えれば良いのかを示さなければならないでしょう。個人住宅であれば主にその住人(と近隣住人)が考えられますが、公共性の高い建物や空間の場合はそれらを利用する人々、また運営する人々に対してもそれなりの説得力が求められます。人を説得するためには、やはり理論的に整合性を持たねばなりません。設計者の好き/嫌いなどの感情だけで人を説得するのは非常に難しいことです。もちろん条件整理を行う段階で充分な説得力を持たせる必要はありませんがこの段階で理論に整合性がなければ、最終的にプレゼンテーションだけで理論に整合性を持たせることなど不可能でしょう。誰も賛同しない計画に意味はありません。
とすると、課題ではクライアントは具体的に設定されてはいませんが、ある程度は対象とするクライアントと人々想定することが望まれます。万人に賛同される必要はないかも知れませんが、設計の目的に合わせたクライアントを想定し、そのクライアントを納得させるように努めなくてはなりません。

設計期間

最後に強調しておきたい条件に、設計期間があります。言うまでもなく、設計には期限があり、時間が限られています。それが3日間であったり、3ヶ月間であったり、3年間であったりしますが、ある時間の範囲内で設計を完了しなければならないことに変わりありません。設計者は決められた期限内に収まるように作業を進めなければならないのです。ある意味で、設計者にとって最も厳しい条件かも知れません。間に合わない、時間が足りなかったといったことは、設計条件が守られておらず、どんなに素晴らしいアイデアだとしても、設計ができていないことと同じです。
設計作業を進める際には、期限を考慮に入れ、きちんと予定を立てなければ、設計期間を守ることはなかなか難しいでしょう。期限が決められていたのなら、その条件内で最も効果的かつ目的に適うように、設計を考えなければなりません。3日間の設計内容と3ヶ月の設計内容は異なっていて当たり前なのです。設計期間という厳しい条件の中で、最適な形で完了すること、それを目指さなくてはなりません。そのためには残りの作業に必要な時間を考慮し、また設計には予測不可能な事態も起こりますので、ある程度の余裕を持って作業を進め、期限内には必ず間に合わせるようにしなくてはなりません。
設計期限は間に合う/間に合わないの問題ではなく、間に合うようにするべきこととできることを整理して作業を進める基準と言えます。
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01-2 条件[手法] −要因の捉え方−