プレゼンテーションでは何を表現するのか、つまり「ここを見て欲しい」というテーマを設定し、それを伝えるためにメディアを見せる構成や順序、一つ一つのメディアで何を示すのかをじっくり吟味しながら作っていきます。やたらにパースやC.G.、模型写真を作成しても、プレゼンテーション上の効果を考えなければ無意味になりかねません。数多く作成したからと言って、闇雲に全てを掲載することは努力を示すこと以外にほとんど意味がないかも知れません。それよりもプレゼンテーション上の効果を考えれば、精巧に注意深く手を込められた1枚のパースが全てを伝えることも多いのです。その判断をするためにも、まずはプレゼンテーションの戦略(プレゼンテーションのコンセプト)を定めないとなりません。その上で構成を練り、その構成に必要な素材を選択します。素材の中からコンセプトを伝えるためにどの様なメディアを利用するのが最善であるのかを吟味しながら選択して行きます。またそれぞれの素材には特徴があり、表現する内容の得意不得意の特徴がありますので、それらを考慮しながら素材を選ばなくてはなりません。一見素材の数は多く見えますが、形態の多様さに比べると遙かに少ないので全ての素材をとにかく検討してみるのも手かも知れません。素材を選択したら次にそれらの素材をどの様に表現するのかを考えてみましょう。その素材で表現する内容をしっかりと把握していれば、その素材の目的を達成するにはどの様に表現するべきかを考えることができるはずです。そうすればその表現方法も見えてくるでしょう。
その素材の大きさや強調するべき事などここでも数多くの事を考えなくてはなりません。CADで引いたハードラインの方が良い場合もあるでしょうし、フリーハンドで引いたスケッチの様に、より感情的な表現の方が適している場合もあります。またどこをどの様に着色するべきかなども検討する必要があるかも知れません。例えば光の入り方を提案しているのならそれがどの様に空間に注ぎ込み、そこにいる人はどの様に感じことができるのかが伝わるプレゼンテーションにしなくてはなりません。そのためには、できるだけ表現する内容を絞り込む必要もあるでしょう。過剰な装飾や着色は逆に焦点をぼかし、そこで表現すべきことを曖昧にするだけではなく、受け手に煩わしい感情を与えかねません。
建築の設計では、図面が重要な表現の手段となります。図面がなければ建築をどのように考えたのかを的確に示すことは困難でしょう。建築を語る上で、図面は言葉のように非常に基本的な表現の手段です。もっと言うと、図面には設計者が考えたことの全てが表れているはずですし、表れていなくてはなりません。細かなことを説明しなくても実は図面さえあればほとんどの内容を読み込めます。受け手がそのように読み込む可能性があるのですから、もちろん設計者も図面はきちんと読めなければなりません。図面の1本1本の線や形、構成などそれぞれの意味を考えながら図面を描き、また図面を読めるように努めなければなりません。また図面に齟齬があっては設計内容の信用性が落ちる、というより無くなることもあります。言っていることがちぐはぐで一貫性がないものを信じる方が難しいと言うことを念頭において、図面は責任を持って仕上げてください。
しかしながら、プレゼンテーションの中での図面の位置付けについて特に留意しておかなければならないのは、図面で設計の内容を読み込むことが可能でもそこまで誘導しなくては伝えることはできないということです。それほど丁寧に長い期間を掛けて図面を読み込んでくれる受け手は存在しません。その図面の読み方を誘導する、または読む気にさせる戦略がもちろん必要となります。
この段階でも、建築家の作品集や建築専門誌などを参照することが欠かせません。一つ一つの素材に対して目的に合わせた表現方法を設計者が最初から最後まで編み出すのは不可能です。設計は常に期間が限られていますから、このような方法は全く現実的ではありません。条件整理や建築のカタチを構想する段階と同じように、他の建築家が何を伝えるのにどのような表現方法を採用しているのかを調査・検討するのも重要なプレゼンテーションの技術です。中には新しい表現方法を自ら編み出さなければならないこともあるでしょうが、それでも他の建築家がどのようにプレゼンテーションしているのかを参照しないことには、効果的な表現方法を構想することはできないでしょう。
以下に各素材の特徴を簡単に示しますので、プレゼンテーションの構想を練る際の参考として下さい。
周辺図とは地図や航空写真などを利用して計画敷地周辺の地域環境を示すものです。駅・高層建築・電波塔などのランドマークやアクティビティの中心となるものを示したり、文化施設・寺社・公共建築など地域を象徴するもの、商店街や散策路など人の集まりや流れ、山・川・湖・海など地形を示したりします。配置図よりももっと広い範囲で計画地域を説明します。配置図や平面図などの図面ほど精密な表現は求められませんが、精密でない分より理解し易い表現が求められます。航空写真に色を付けたり、地図から余分な情報を除いて理解し易く描き直したりしましょう。
関連用語:
都市計画図(白地図)
敷地全体とその周辺を盛り込んだ図面で、その場所でその建物がどの様に建っているのか、どのような存在なのかを客観的に伝えるのに適しています。
関連用語:
配置図
建物の空間構成や面積配分、位置関係、機能的な事柄、動線などを客観的に伝えるのに適しています。
関連用語:
平面図
動線
その空間の高さやスケールなど空間を客観的に伝えるのに適しています。平面図と照らし合わせて見ることが多いので近い位置に配置する方が良いでしょう。
関連用語:
断面図
建物の外観や周辺との調和などを客観的に伝えるのに適しています。凹凸や素材感を示すために影を付けたり着色することもあります。
関連用語:
立面図
室内や外からの見映えを知覚的かつ感情的に描く事ができます。建物の周辺や内部空間の様子など、実際にその場所に立つとどの様に空間を感じとれるのかなどを示します。多くの場合、人の視線の高さをきちんと設定します。レンダリングされたCGなどが使用される場合もあります。
関連用語:
レンダリング
実際に人が歩いた場合、空間がどのように変化するのかといったシークエンスを示す場合に適しています。連続した外観/内観パースを並べたものです。
関連用語:
シークエンス
建物と周辺の関係をボリュームや配置を通じて示すのに適しています。大規模な建築や広い範囲に対する提案、または周辺環境を取り込んだ提案の場合に使用することが多いでしょう。
関連用語:
ボリューム
立体的に空間構成などを比較的客観的に伝える場合に適しています。立体的な表現なので構成や位置関係、ボリュームなど把握しやすい図面です。また比較的短時間で描くことができ、利用の仕方によっては、非常に効率が良い表現方法です。
関連用語:
アクソノメトリック
ある部分の説明を抽象的や、実際の形態がどう成立しているかなどを説明する説明図です。必要に応じて使い分けましょう。
関連用語:
ダイアグラム
敷地状況や建物の配置計画などをしめす場合に使用されます。特に起伏のある敷地や高層ビル群の近くの敷地、駅の近くの敷地など、周辺の要素が多い場合や複雑な地形の場合に活用されるべきでしょう。
模型制作マニュアル:
模型制作マニュアル
図面で言う鳥瞰図や外観パースなどの役割を果たします。しかし実際に立体的/物質的に立ち上がっており、透明な素材感なども伝えやすいので、その点では模型の方が優れていると言えるでしょう。全体模型は接地階平面図と同じように周辺状況まで含んで作るようにしましょう。
建築のある部位を説明するのに使用する模型です。建物を分割した断面模型や室内を詳細に作った室内模型などがあります。
提出方法によっては模型などが使用できない場合もありますが、その場合は模型写真などを活用しましょう。アングルやフレーミングによっては模型そのものより確実に表現できる事が増えます。また周辺を説明するために敷地写真などを使用しても良いでしょう。場合によっては人の行為・情景・既存の空間をイメージ写真として使用することも考えられます。
写真撮影マニュアル:
写真撮影マニュアル
もちろん文章も建築を表現する一つの手段です。敷地概要や設計主旨などを説明する場合に使われます。文章は分かり易く簡潔に書くように心がけましょう。
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04-3 表現 −表現の構成−