建築学習 memo


  1. 環境デザイン演習[建築]デジタル教科書
  2. 建築の設計過程 TOP
  3. 01 条件
    1. 01-1 要因の把握
    2. 01-2 要因の捉え方
    3. 01-3 設計条件の定義
  4. 02 構想
    1. 02-1 コンセプト創出
    2. 02-2 建築計画の検討
    3. 02-3 提案の組立
  5. 03 具現
    1. 03-1 構想の形態化
    2. 03-2 構成の検討
    3. 03-3 図面描写
  6. 04 表現
    1. 04-1 表現する目的
    2. 04-2 素材と表現方法
    3. 04-3 表現の構成

01 条件 −目的と設計−


Q:あなたは「デザイン」をどう定義しますか?
A: 望む目的に最も良く適うように、さまざまな要因を考慮し、必要な要素を組み立てる計画、それがデザインです。
出典:Charles Eames, 『Film: Design Q & A』, 1972

設計を目の前にして、まず最初に行なわなければならないのは「どの様な条件が満たされていなければならないか」という設計の条件をしっかりと把握することです。デザイン(=設計)とは、目的の実現のためにそれらの要因を踏まえて必要な要素を組み立てる計画です。目的に適う設計を行うことには、要因を整理し構想を練るための準備を行なうことが欠かせません。ここでは、デザインに特有の「設計条件を設定する」ことの説明を通して、デザインとは何かということを少しでも掴んで頂きたく思います。
設計はあくまで計画であって、いわゆる「アート」や「もの作り」とはかなり意味が異なります。もしかすると、日常的に用いられている「デザイン」という言葉も、実は本来の意味からずれた意味で使用されていることもしばしばありそうです。


それぞれの課題やプロジェクトがそれぞれの目的を持っていることを考えると、その目的にあわせて設計条件も異なります。また仮に同じ課題であったとしても、その要因はそれぞれの設計者によって捉え方や解釈が異なりますから、全く同じ設計条件であることはまずありません。設計者はそれらの要因をそれぞれの独自に解釈し、設計条件を設定していかねばなりません。
では、その設計条件とはどういったものか、設計条件をどの様に捉えれば良いのかを具体的な条件整理の説明に入る前に簡単に整理しておきましょう。

建築は住む・過ごす・働く・鑑賞する・崇める、または建築それ自体が何かを示すことなどの多様な目的を必ず持っており、その多くは複雑に絡み合って複合的な目的となって建築の存在を支え続けます。例えば、一言に「住宅」といっても、暮らし方にもいろいろな方法が考えられます。広さ1畳、高さ800mmの住宅(カプセルホテル)でも住居に成り得るでしょうし、シアタールームやプールなどの、映画館や運動施設といった寝食以外の機能が複合して出来上がる住宅もあります。また、テントのような移動住宅(モンゴル民族のパオ、トレーラーハウスなど)で暮す生活もあるでしょうし、週末だけ利用する週末住宅のような形もあるでしょう。いずれにせよ、それぞれの文化や環境、生活に合うように住宅が形作られています。これらは全て「住宅」と呼ばれますが、形や使い方はそれぞれ全く異なるものとして我々の目に映るでしょう。
01-01 岸和郎「深谷の家」,2000コートハウスの中央にプールが配された住宅。 出典:『2G N.19 2001/III Waro Kishi Recent Works』, 'Editorial Gustavo Gili, sa' 01-02 トレーラーハウストレーラーハウスにも住める。旅行好きの人なら好んで住むだろう。 出典:『point it』,1999, Dieter Graf' 問題は住宅や住むという言葉ではなく、「どの様に生活するのか」です。家とは生活の手段(=道具)であり、目的ではありません。そうすると生活という目的の達成のためには、家という手段にしろ、住人の生活習慣はもちろん、趣味や好み、勤務先までの距離、買い物に出かける範囲、近隣住民との関係、社会との関わり方、周辺環境など、計画の敷地内に納まることなくその「暮らし」に関わる全ての要因を考慮しなくてはなりません。つまり住宅とは、目的の生活に最も適うように、必要と考えられるものを、敷地内という条件内で組み立てたもの、と言えるでしょう。
01_03 中国北部にある地下村落の一部屋根の様に見えるのは全て地面である。樹木が生えている位置に注目するとそれが分かるだろう。生活や条件が変われば住宅のカタチも変わる。 出典:B.ルドフスキー『建築家なしの建築』SD選書184, 鹿島出版会 手段と目的を取り違えると、目的に適った設計ができません。手段と目的の区別は非常に難しく思われる場合も多く、また混乱させられることも多々ありますが、注意深く判断しなければ、そのための条件などの要因を把握することはできません。まして、目的に適う設計ができる訳がありません。

住宅だけではなく、建築を含む人が計画して作る全てのモノや行為には目的があり、その目的を達成するためには様々な制限や条件、問題や課題などの要因があるのが常です。設計に限らず、もちろん目的を達成するにはそれらの要因に対処しなければなりません。建築を設計するにあたっては、それらの要因を考慮しつつ必要と思われるものを組み立てなければなりません。そこに潜在する問題には、一般的に、敷地条件・機能条件・コスト・クライアントの意向・社会情勢・実現の可能性・設計者の志向・設計期間など、例を挙げるとキリがありませんが、それぞれの設計にはそれぞれの多岐多様な要因が無数に存在します。設計に取り組む際には、設計者はそれらの問題をできる限り発見または発明し、それらの要因に対して分析を行い、設計条件を定義することが欠かせません。条件整理とは、その設計条件を組立て、自らが評価を行い、分析し直したり組立て直したりしながら、設計条件を充分に発展させることです。

設計条件とは設計の基幹とも言えるものです。もし設計の要因をしっかりと把握していなかったり、条件整理を疎かにして設計条件の設定を充分に行っていなければ、目的に適うカタチを計画することなど到底不可能でしょう。設計の途中でそれに気付いてしまうと設計を初めからやり直すはめになりかねません。設計の目的と設計条件をしっかりと把握しなければ的外れな構想を行うことになり、もちろんその後に続く形態の具体化や製図、プレゼンテーションに至るまでがその目的に適わないものになってしまいます。目的に適わない計画は無意味であるに違いありません。
建築などの計画されたモノの形態とは、その定義された設計条件を踏まえて、目的に適うように構想を練り上げ、設計者によって具体的な形に写し替えられたものです。それぞれの設計者が設定したそれぞれの設計条件があり、それを踏まえた構想から導き出された形態がその設計者独自のものであることを考えると、条件整理とは設計活動の起点であり形態の胎動ともえるような、設計活動において非常に重要なものであることをしっかりと認識してください。
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01-1 要因の把握