「Aとは何か?」と問いかけることは、世の中の仕組みをわかった気になるために欠かせない偉大な始めの一歩である。
建築とは何か? 空間とは何か? 都市とは何か? 国(境)とは何か? 世界とは何か?
あなた/わたしとは何か? 「Aとは何か?」とは何か?・・・
さて、我々はこれらの問いに対して、どのような説得力のある解答を用意できるのであろうか。大きく分けて、二通りのアプローチと三つの論証パターンがあるので紹介しよう。まず、アプローチとしては通時的な見方による方法と共時的な見方による方法がある。前者は、現在に至る過程を時間軸に沿って振り返ろうとする視点であり、平たく言うとAの形成史(プロフィール)を明らかにすることでAを理解しようとするスタンスである。反対に後者は、時間軸の影響を受けないような普遍的な要素を抽出することでAを解明しようとする態度である。建築のカテゴリーでは、前者をスタイル(様式)、後者をビルディング・タイプ(典型)といった構成要素で語られることが多い。余談ではあるが、前者を好しとするタイプは、一般にロマン主義思想といって現在のあり方を懐疑的に捉え、古典といったある過去の時代に回帰することを理想とする傾向が強い。反対に、後者を好しとするタイプには、ユートピア主義思想といって近未来に理想的な社会が実現可能であるとする楽観主義者が多い。
次に、「Aとは何か?」を明らかにする際に必要な論証のパターンとしては大きく分けて3つある(図2参照)。第一に、類似するBとの比較によって明らかにする方法がある。所謂比較検証である。具体的には、比較した結果Aのみに属するものとBのみに属するもの、そしてAとBの両方に属するものに分類することでAの特性を明らかにする。第二に、Aには含まれない外部Cを提示する方法がある。Cを次々に列挙していくことで外堀を埋めAの解明に迫る。第三に、Aを構成する構成要素a1、a 2・・・に還元する方法である。また、最近では第三の方法である還元的手法の発展版として、シミュレーションといった構成的手法の台頭が著しい。例えば、脳の解明方法として、解剖学や心理学、遺伝子解析といった生物科学的な構成要素に還元するのではなく、工学的にロボットを作ってしまうことで解明しようとする方法がこれに当たる。無論、その背景には計算機(コンピューター)の普及が欠かせない。計算機という媒体が人間の思考の変革を迫った好例といえよう。
図2
関連用語:
ビルディングタイプ