私が大学に入って間もない頃、友人の福島さんがこう助言してくれた。「出来るコト、やらねばならないコト、したいコトを混同してしまっているから行き詰るのよ、一旦分けて整理した上で、それらの三者のバランスを図る必要があるのよね」と。
ゼミの配属先が無事決まりしばらくたったある日、指導教官であったE・ビライ氏が確信を得た顔つきでこう切り出した。「建築を探求する際には、建築と建築物と建築表現に分けて行う必要があるンですネ」と。
大学院生になり、ウィトルーウィウスの「建築書」を精読していたとき、そういえば建築計画の授業で「建築とは用・強・美の三位一体である」と習っていたことを思い出した。
これらのエピソードに共通する点とは何か?それは、曖昧な対象に対して、一旦構成要素に分けることでクリアにしようとする姿勢です。特に「建築」を探求する場合、互いに鬩ぎ合う三者の関係を調整するような視点を如何に確保するのかが決め手となります。
以上を踏まえた上で、私から皆さんへひとつの提言をすると、建築と向き合う際には、まずCAN、MUST、WANTに分けて整理することから始めて頂きたい(図1参照)。例えば、皆さんにとって身近な問題である設計課題に当てはめて考みると、まずCANに当たるのは各人のスキル的制約、つまり図面表記や図面表現といった具現化に必要な能力となります。無論この能力が向上する=円の面積が広がると、より多彩な提案をより自由自在に扱うことが可能となります。次にMUSTに当たるのが、課題条件や提出期限を守るといった社会的制約です。この制約をあからさまに破ることは建築としての醍醐味を半減させることに繋がります。最後にWANTに当たるのがCANという下からの制約とMUSTという上からの制約の狭間であなたは何を問いかけそして如何なる提案をするのか、つまり作り手の主体性を意味します。
図1
建築的に魅力ある作品とは、この三者のバランスが図られているものだと考えてください。よくあるのは、どれか一方に偏った作品です。スキル的な能力が高い反面、コンセプトについてほとんど言語化されていないもの。逆にコンセプトに力が入りすぎて、表現できる能力の範疇を超えてしまったもの。主題者の意図が理解できておらず、緊張関係を生み出すまでには至っていないもの、等です。しかし、この図(考え方)の最も大切なメッセージは、たとえスキルが未熟な段階であるとしても、MUSTの真意を理解し、WANTを柔軟に調整することにより、魅力ある作品は創作可能であるといえるところです。
関連用語:
用・強・美