よく「多目的空間」という名の「無目的空間」が存在する。ここで言う「多目的空間」は「均質空間(*1)」や「ユニバーサルスペース(*2)」と意味が違う。「無目的空間」は5W1Hがほとんど考慮されていない空間である。自由な(無責任な)空間は利用者にその利用方法・目的を考えさせる。5W1Hは、Why(なぜ)、What(なにを)、Who(だれが)、Where(どこで)、When(いつ)のそれぞれの頭文字をとった5Wに、How(どのように)の1Hを加えたものであり、文章を構成する際などの基本的な要素として用いられる。空間を構成する際も状況に応じた5W1Hを設定すべきである。
設計行為とは、生活(life)と空間(space)の対応構造を創造する行為といっても過言ではない。生活を様々な行動(activities)が重なり合ったものと考えると、建築空間は様々な行動に対応した「多目的空間(≠無目的空間)」でなければならない。
例えばアトリエ空間は、多くの作業が行われるいわば「多目的空間」といえるだろう。「かんがえる」「かんじる」「くみたてる」「あらわす」等の作業工程が存在し、それぞれに様々な行動(activities)がつきまとう。この「かんがえる」「かんじる」「くみたてる」「あらわす」といった工程は、それぞれが独立・完結しているものではなく複雑に絡み合ったものである。「かんがえる」作業を一つの単位空間(*3)に設定すると、その単位空間は「かんがえる」という様々な動作空間(*4)の重ね合わせであると同時に、その他の単位空間との複雑な「関係性(*5)」も重要となる。
fig1. 単位空間同士の関係性
図版作成:著者
(*1, *2):いかなる用途にも適応するように、特に目的を定めない無正確な空間。建築により利用者の生活を規定するのではなく、選択の幅を広げることを目指して現計画されている。現在のオフィスビルの多くはこうした空間から構成されている。ミース・ファン・デ・ローエが提唱したことで有名である。
ユニヴァーサル・スペース
アクティビティ
(*3, *4):
コンパクト建築設計資料集成〈住居〉,丸善株式会社,pp144,1992
(*3, *4):「関係性をデザインする」を参照
関係性をデザインする