美術史を専門としていながら、研究対象とする時代である明治時代の多彩な資料、情報を調べることに興味を持ち、作品それ自体を深く分析する機会を逃してきた。外国との興隆が活発となった明治時代の絵画や工芸品についての制作にいたって残された資料は、当時この作品がつくられ、今もここにあるべき意味を教えてくれる。一方で、やはり作品それ自体について語ることは、作品の魅力を後世に伝えるために重要な作業である。構造や素材によって成り立つ作品の特徴を解析することは、その作品の持つ魅力を明らかにするための解体作業であり、作品の魅力を伝えるひとつの、しかし、大きな手段であるためである。
作品についての背景と、作品それ自体を分析すること、この二点によって偏ることなく掘り起こしていくことの大切さを常に念頭に置くようにしている。しかし、ものについて語る際、これにはこちらからのアプローチの方が魅力の伝わり方が有効であるかもしれないという眼を養うことも大切であると考えている。
建築デザインにおいても、ものの見方にはあらゆる方面からのアプローチが可能であるように思われる。しかし、建築デザインにとっても美術史にとっても的確な判断力と柔軟な心でものを見極める姿勢は共通した方法のように思われる。