2004年3月に竣工した大阪阿倍野の「美章園の長屋」は、私が設計した住宅としてはようやく2件目。まだ何をやればよいのか手探りのままひたすら条件に対して愚直ともいえる素直さで対応した結果完成した作品です。数年前最初の住宅を岡山で手がけたとき、土間のあるポリカ折板屋根の空間があまりに暑く、急遽両端にジャロジー窓をつけ風を通すことにしました。その時、空気が動くことがこれほどまでに重要なのか、と実感しました。今回の「美章園の長屋」にて、2階居間を通った風が常時階段を駆け上がり3階寝室より抜けていくのを感じたとき、自分が作った地形を空気の流れがトレースしてくれていることに感激しました。少なくともその流れをせき止めはしなかったことにほっとしました。「空気が動く」ということ、それはもちろん物理的なことだけではなく、「空気が変わる」といったように人相互の関係にも適用されます。「気配」とか「気配り」というのは要するに「空気の配置」の変化や、「空気の分配」ということでしょうし、そうすると設計というのは「空気を読む」ことあるいは「空気を詠む」ことなのではないか?などとふと思ったりします。(『新建築住宅特集』2004年9月号「本誌初登場」コメントに加筆)