久しぶりに豊田市美術館を訪れた。昔の感動を期待しながら、そして10年を空けて改めて体験することでの新たな発見を期待しながら、美術館に向う。
立地は市街の近くの小高い丘で、まるで山深くにある寺院のように周囲から独立した聖域のような場所になっている。その中に広がる立体的な池泉回遊式庭園、というのがこの美術館の全体の構成だ。池泉を中心とした異質小空間の連続というのが池泉回遊式庭園の特徴と言えるだろうけれど、豊田市美術館もその例に漏れずシークエンスが素晴らしい。建物内と建物外および内部と外部の2つの次元の操作による複数の質の空間が交互に現れる、と簡単に言えるだろうか。動線は想定されているけれど限定ではなく、かなり自由に動き回ることができる。建物というより美術館という立体的な庭園の中を歩いている感覚。ピーター・ウォーカーによる庭園も素晴らしく、システマチックなデザインの中にも感情的な操作が心地よく行われている。
さすがに展示室群は一筆書きの動線だけど、一つの空間を様々な視点から眺められる立体的な構成になっていて、空間の見返しや再会が巧みに用意されている。展示室はもちろん外部は取り除かれるけれど、順路途中に建物から飛び出すように設けられた通路から、市街(日常)を見下ろす時間がふっと挿入されていたり、内部空間が続く鬱陶しさや不安を全く感じさせない。敷地全体の動線もそうだけど、次にどのような空間の演出が用意されているのか楽しみになる。
撮影:著者
10年前は建物ばかり見ていた気もするけれど、今は呼び起こされる知覚や感情をある程度は認識できるようになってきた気がする。どのような場を良いとしているのか、その場に適した素直な構成や工夫、贅沢な素材も寺院などの日本伝統建築と庭園のあり方に近い気がする。展示室で展示物を見るというより敷地全体で、さらに言うなら施設として、美術・文化を感じるための空間に祝福されているように思う。これは10年前から変わらないけれど、僕は「豊田市美術館」を日本で最も良い「美術館」だと考えている。