レポートの書き方1(準備編)ーレポート制作に取り組む前の心構えや準備についてー
■高校までの「学習」と大学での「学び」の違い
高校までは学習指導要領にそって日本中の学校でほぼ同じ内容の授業を受け、ある一定の理解度や到達目標が定められています。つまり、みんなで同じ内容を学び、一様に一定以上の成果を得る「学習」が求められていました。
でも、大学の「学び」においては、そこに一人ひとりの個性や考え方の違い、あるいは「学び」に対する目的や目標の違いが加わります。同じ内容を学ぶに際しても、教養として学びたい人と、自身の研究に結び付けたい人と、仕事に活かしたい人、資格受験のために学ぶ人、などではスタンスそのものも大きく異なることでしょう。
つまり、高校までのある一定レベルまで達成することを求められた成果に、それぞれの道を進むにあたって何をプラスするかを求められるのが大学という場なのです。この点が高校までの受動的な「学習」と大学での能動的な「学び」との違いなのです。それは合格レベルからの減点法で評価が決まってきた世界から、加点法で評価が決まる世界への大きな転換点なのです。
■「自分の意見を述べる」ということ
科目や課題によって異なるでしょうが、大学のレポートにおいては「自分の意見を述べる」ことが多く求められます。このような点が皆さんにとって、もっとも戸惑うところでしょう。「はじめて勉強する内容の難しい専門書籍をわからないながらに何とか読んで、その内容を理解するだけでも大変なのに、それに対して自分自身の意見を述べるなんてとってもじゃないけれど無理だ」そんなふうに感じる人も多いでしょう。でもそれは、その本の世界の中にどっぷり浸かってしまった状態だからではないでしょうか?
通信教育部に集まる学生のみなさんは既に様々な分野で一定以上の経験を積んだ人が大半かと思います。もちろん、建築やデザインと全く関係のない分野で構いません。であれば皆さんはそれぞれにある程度自分の専門とする領域を持っていることになります。営業の専門家かもしれませんし、販売の専門家かもしれません。家事の専門家でも構わないのです。なにかしら今までの経験から得た着眼点があるはずです。それを本の外の世界だとすると、本の中の世界から離れて、外の世界からの着眼点で今読んだ本を見つめ直すことができないでしょうか?そこから「自分の意見を述べる」ことに繋がるのです。
担当教員によって多少の差はありますが、設計課題と同様にレポート課題においても、教員は学生たちのフレッシュな視点からのユニークな着眼点に期待しています。たとえビギナーズラックからでもいいから、なにか新しい可能性をはらんだ着眼点を求めているのです。そんな教員の欲求を刺激することができれば高い評価を得ることができるでしょう。
でも逆に書籍の内容を要約するだけのレポートであれば、教員はとても落胆することでしょう。ギリギリ「C判定」がもらえればラッキーですが、「D(再提出)」を食らうことも多いことでしょう。ダメもとでイチかバチか少しでもよいので自分なりの着眼点で自分自身の意見を述べてみましょう。その方が同じ「D(再提出)」を食らうことになったとしても、より具体的なアドバイスを引き出すことができると思います。
■教科書・参考文献の読み方
さて、レポート課題の主たる目的が「自分の意見を述べる」ということであるならば、教科書や参考文献の読み方にも変化が生じてきます。高校までであれば教科書や参考書の内容を隅々まで暗記したり理解したりして来るべき試験の際にできるかぎり良い成績をあげるなくてはなりませんでした。つまり書籍に対するスタンスは「すべての内容を理解する」ことにありました。でも主たる目的が「自分の意見を述べる」ということであるならば、書籍に対するスタンスは「自分の意見がまとまる程度に内容を理解する」あるいは「自分の意見と同じような主張を探す」と変化してきます。であればこそ、はじめて目にする専門用語をひとつひとつ調べながらではなく、ともかく最後までザッと一気に読むことで全体の大まかな概要を把握することが重要になります。「木を見て森を見ず」なんてコトにならないように気をつけてください。逆に言えば、どれだけその内容を理解できても、結果として自分の意見がまとまらなければ意味が無いのです!
とは言え、初めて学ぶ世界に対してそんな簡単に自分の意見がまとまる訳もないでしょう。そんなときは急がば回れ、気分転換に他の参考文献や関連する他の科目の教科書を読んでみたり、また元の教科書に戻ってみたりと、いろいろ寄り道・回り道をしながら自分の考えを熟成させていくことが肝心です。
ですから、はじめっから「さあ、レポートを書くぞ」と意気込んだところであまり成果は得られないかもしれませんが、いろいろ回り道をしている間にある時点からふとゾロゾロっと芋づる式に様々な課題に対する自分の意見がまとまってくるとはずです。
■書き始めはつまらなくても構わない
設計課題の制作プロセスでの「スタディ」と同様に、レポート制作においても様々な試行錯誤が必要でしょう。ふと思いついたアイデアやテーマでレポートを書き進めようと試みて、でもなかなか上手く進まなくて再度、教科書や参考書籍を読みなおすなかでまた新しい発見があって、徐々に「自分の意見」がまとまってくることでしょう。頭の中だけでモンモンと考えてばかりいるのではなく、どこかの時点で思い切って文章にしてみることが肝心です。書き始めはきちんと整ったテーマでなくても構いません。通信教育部生の皆さんには社会人として仕事をしながら、あるいは主婦として過程を支えながら学習を進める方も多くいることと思いますが、そんな日常的な経験や気づきなどもレポートのテーマ設定に活かすこともできるでしょう。もちろん、建築やデザインと全く関連のないことがらであっても構いません。書き始めは何でもよいのです。
ただし、自分勝手の思い込みだけを連ねたものは良いレポートとは言えません。そこでは必ず自分の考えが決して間違っていないことを示す根拠を用意する必要があります。それは教科書や参考書籍からの引用です。「自分の意見と同じような主張」や「自分の意見を擁護するような記述」を教科書や参考書籍から拾い出してきて、自分の意見が間違ってはいないことをアピールするのです。この引用部分が自分の意見が間違ってはいないことの根拠や証拠となるのです。
従って、引用元は「然るべき出版社から発行されている信用できる著者の著作」でなければなりません。どこの誰が責任をもって記述したのかも不明なインターネット上の記述などは論外です。「然るべき出版社から発行されている信用できる著者の著作」でなければ「証拠価値」が低いからです。この「自分の意見と同じような主張」や「自分の意見を擁護するような記述」を教科書や参考書籍から探しだす作業がとても重要です。この期間に自分自身で自分の考えをあらためて考えなおす契機になるからです。まさに、設計課題の制作プロセスでの「スタディ」と同じです。
だからこそ、書き始めはつまらなくても構わないのです。箇条書きから始めてもよいでしょう。1時間なり2時間なり、時間を定めてその間に集中して取り組み、書いたり書きなおしたり、教科書や参考書籍を読みなおしたり、テーマを設定しなおしたり…と「スタディ」を繰り返すことが肝心です。