物体が透けていること。
建築の透明性というと、建築史家・コーリン・ロウが「マニエリスムと近代建築」のなかで定義付けた概念が有名。ロウは、透明性という概念を二つに分けて論じた。ひとつは、ガラスなどの物質によって、向こう側が透けて見えるような直接的な透明性で、これを、「実の透明性(リテラルな透明性、Transparent)」とした。この透明性は、すでに、美術史家・ギーディオンが建築にガラスが多用されることで生まれている透明化について指摘していた。ロウは、これを批判的に、もうひとつの透明性、「虚の透明性(フェノメナルな透明性、Transparency)」について論じる。
いくつかの像が重なり合うとき、その重なり合う部分が互いに譲らない。そうすると、 見る人は隠れた部分に何かを補って見る。 このとき、想像上では矛盾なく、互いの像が相互貫入する。ここにうまれる透明性を「虚の透明性(フェノメナルな透明性)」とした。単にガラスが透けるという即物的な透明性ではなく、観念上の透明性である。
2次元の重なる像左図に描かれている図形を正確に言うと、「青い3/4円」と「ピンクの扇形」そして「赤いL字形」である。しかしそのように3つバラバラの形が見えるというより、「赤い四角形」と「青い円形」の2つの図形が重なっているように見える。
実際は「青」と「ピンク」と「赤」の三色であり、「青」も「赤」も透けているわけではない。しかし「赤と青が重なり合っている」と見る場合、「青」と「赤」のどちらかが一方が透けている(透明性)と頭の中で想像している。なお「赤」が下部にあって「青」が透けているか、「青」が下部にあって「赤」が透けているか、「青」と「赤」の位置関係は奥行きを持ちつつ揺れ動く。
いくつかの面が層状に重なり合っている建築や、立体派の画家、ブラックの絵画などに、それを見てとることができる。
ロウの透明性は、図式を媒介にしながら、建築を読み解いたり、建築の形態を生み出したりする際に、有効な概念として、広く引用されている。
参考図書:コーリン・ロウ著/伊東豊雄・松永安光訳「マニエリスムと近代建築」(1981年、彰国社)
Bernhard Hoesli, Analytical diagram for Le Corbusier project, residense near Cherchel, 1942.ル・コルビュジエのプロジェクトに対する透明性を検証するダイアグラム。複数の空間が重なり合い透明性が生み出されている。右図の着色は解説者による。
出典:『Current Practices 1: Beyond the Minimal』 1998, 'AA publications'
岸和郎、山口大学医学部創立50周年記念館、1997庭園とそれを取り巻くデッキの範囲、建物の外形で規則付けられる範囲、構造で規則図付けられる範囲、ガラスで囲われる範囲など、それぞれの空間が重なり合い、空間に奥行きと関係が生まれる。右図の着色は解説者による。
出典:『2G』 N.19 2001/III Waro Kishi Recent Works, 'Editorial Gustavo Gili, sa'
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地と図