勝ち負けPriority Of Form


下の写真(写真1)の、両サイドの壁、と、屋根スラブがぶつかり合うところに、垂直方向の目地が通っていることが発見できるだろうか。目地が通っている理由は、写真のそばに添えられた、アクソノメトリックと照合することによって理解できる(図1)。この建築空間を規定している要素は、両サイドの2枚の壁と、そこに落とし込まれたスラブである。垂直目地は、壁を板材として見せ、それが上部まで通っている事を示す為にあるのだ。このとき、壁は、屋根スラブに「勝っている」、という。
01 写真1 出典:『a+u 1997年11月号』, 'エー・アンド・ユー'
02 図1 出典:『a+u 1997年11月号』, 'エー・アンド・ユー' 垂直の壁、水平のスラブ、といった異なる要素がぶつかり合う時、このように目地を入れる等の処理によって、どちらかを通したり、通さなかったりすることを、勝ち負けという。
一方、写真2には、写真1のような目地は見当たらない。この建築はマッス(塊)とそこに穿たれた穴によって空間が規定されている。ここでは、むしろ、壁やスラブに勝ち負けをつくらないことによってその量感を表現している。
03 写真2 出典:『a+u 1998年2月臨時増刊 Peter Zumthor』, 'エー・アンド・ユー' 壁・屋根スラブによって規定される前者の内部空間は、写真3のように開放的な大空間を作り出している。マッスによって規定される後者は、写真4のように、その先にかすかな光を感じる、洞窟のような内部空間を生み出している。
勝ち負けをつけたり、つけなかったりすることは、どんな質の空間を作ろうとしているか、という意志の表現でもあるのだ。
04 写真3 出典:『a+u 1997年11月号』, 'エー・アンド・ユー' 05 写真4 出典:『a+u 1998年2月臨時増刊 Peter Zumthor』, 'エー・アンド・ユー' 関連用語:
アーティキュレーション アクソノメトリック 架構 スラブ