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インタビュー

漆芸家:北原久さん /聞き手 松井利夫

 

ーー 今、この漆という素材でですね、それでいろんな塗装であったりとか商品開発をされてますよね。

ええ、やってます。

ーー で、それはどういう成功例があって、どういう失敗例があるかっていうのを

漆器組合が村と共同でやってるんですが、新商品開発って言っても、なかなか販売網が上手じゃないような気もしますね。そんなに売れちゃいないみたいですよ。工芸館にあったのを、新しい仏壇風の物だとか、あれもその中のひとつが、売れないらしいですよ。そんなには。結構値段もしますけど。

ーー コンピューターのマウスとかもありましたよね

あれも個人で考えたもんですね、その人はいいって言いますけど、そんなに壊れたら捨てるもんじゃないですよね

ーー 一度買ったらそのままですね

他の物で用が足りない訳でもないでしょう。もっと違う事で考えた方がいい気がする。だからインテリア関係で物事を考えている人もいっぱいいるんですよ。

ーー アルテックさんみたいに?

ええ、斉藤さんですね。あの人も飛び抜けた事考える人やから。漆塗りのうちやろ。これは昔っから床柱とかなんてのは漆塗りいっぱいあったんですよ。でもテーブルが忙しいから、それに熱を入れる問屋さんてのはなかったでしょ、旅館相手の1000万の仕事取った方が早いでしょ。
だからそういう事が今仕事ないからってやる人もいないでしょ。問屋さんがつぶれようが。だってつぶれた問屋さんいっぱいあるもん。そういう事考えてやるってのは職人しかいないんやね。問屋が考えて職人に仕事くれるんならいいけど。

ーー 問屋さんには考える力がないわけですか。

自分が飯が食えりゃ十分だとかね、だから職人みんな首にしてね、もう店屋だけでやるとか、外向だけでやるとかね、で、注文出せばすぐ届くしね。

ーー じゃあ問屋から切れた職人さんは、自分たちでまた開発しなきゃなんないんですか?

そうですね。だけどそんな事やってたら飯が食えんから、転業した人がほとんどですわ。転業出来る年代って言うのはありますからね、若い人はみんな転業してったわ。

ーー おみやげって言う物をこの木曽ではどのように考えておられますかね?

おみやげって言っても、つい最近の話ですからね。店ができたのが。で、漆器のお土産売り場って言うのは漆器しか並んで奈良井で売ってるような、いろいろな誰でも買うような物はどこも飾っちゃないですね。奈良井だけですね。それもつい最近ですからね。最初の店が始まったのは、自分のうちで作る仕事がなくなったから、自分のうちで作った物を畳の上で並べて売ってたって言うのが始まりじゃないですかね。

ーー あの街道沿いの家の前に?

ええ、まあ今店屋だらけになっちゃって、そば屋だらけになっちゃって、まだそば屋ならいいんですよ。店屋だから格子外しちゃうんですよ。だから雰囲気なくなっていっちゃうんですよ。

ーー そうか、昔だったら格子・・・

全部格子ですよ。だけどその格子外して店屋にしちゃったんですよ。

ーー ああ、商品見せやすくするために?

そう、だから風情ないね。それと自動販売機が並んじゃったんですよ。それも私も言ったんですよ。村づくりって言う委員会があって、合併について。それ言ったら問題になったけど、うちばっか、撤去しろとかそういう事は言えねえですよ。うちは言いにくいじゃないですか。せっかく電信柱全部埋めて、でも自動販売機がいっぱい色鮮やかにあったら、雰囲気がないでしょう。あれも規制しなきゃだめなんですよ。それとね、店のね規制も出来ないんですよ。最初は格子を絶対外さないで店をやってくださいって事だったらしいんですよ。奈良井で、村で決めて。ところが、一人外せばみんな外すわね、そうすっとおたくじゃなんだ、違反してるじゃねえかってことが言えなくなってくるんですよ。同じ村で親戚関係みたいな村ですから。全員が。

ーー それで言うと、奈良井よりも、平沢の方が、町並みとしてはね、電柱も並んでますけど、それと必ずしも格子ばかりではないけど、生活してる家と、格子の家とあってですね、自然な町並みの感じがするんですよね。

ここはこんどあの、国の指定を受けるために、同じ商売をやってるって言う、問屋街でもないが、そういう町の申請をしてるんです。保存っていうか。
一つの村が全部同じ商業をやってるって言うやつですね。

ーー じゃあ町並みそういう風にして、格子外して中見せるようにして、で中見せた土産もんてのもどこでも扱ってる同じような物が並んじゃった訳ですか。

そうですね。漆器を主だってうってるとこもありますけど、ほとんど他産地。

ーー 中国が多いのですか?

そうじゃなくて、中国もありますけど、あの、会津だとか、

ーー 輪島?

輪島は高くて売らない。そういう漆器ですね。木曽漆器って言ったって、木曽漆器なんて微々たるもんしかうってませんよ。木曽漆器祭じゃないですよ。ただの漆器祭。だからお客もおこるよ。なにこれ、よその産地のものじゃねえかって。

ーー 分かる人は分かるんですか?

分かるよ。最初はそこの会津漆器って箱まで置いてあったんですよ。なに、会津漆器て書いてあるじゃんて言われちゃったんだよ。そしてそれから箱は隠すようになったんだよ(笑)並んでるのはどこのうちいっても同じもの並んでるようになっちゃって。

ーー 漆器の産地でありながら、他産地の物を売るんですか?

売るんです。外国産も。

ーー かなり多いですか?

多いです。多いなんてものじゃない。ほとんど。そうですよ。陶器市って言ったらそこで出来る陶器だけど、木曽漆器祭だけは違いますよ。前は堂々と他産地の人が見本市を開いたんですから。この木曽漆器祭があるたんびに。福祉会館で。ほんで問屋がみんなそこで注文して、木曽漆器の職人から誰も何にも買ってくんない。

ーー じゃあ清水焼祭りのときに、備前から備前の物を売りにきたみたいなもんですか?

そうですよ。ただの陶器市ならどこの産地の物売ったっていいですよ。ここは木曽漆器祭ですから。

ーー そういう規制は出来ないんですか?

できないね。問屋は儲からへん、自分が儲からへんもん。

ーー 職人さんもたまったもんじゃないと言うか、そういう意味で、自分とこで商品開発あまりできない訳ですね。

できないっていうか売れなければそういう考えも持ったってねえ。

ーー でも、例えば北原さんは個人で作家活動でされてますけど、問屋仕事されてる人は問屋さんが売ってくれないと、売れないのですか?

そうですね。売る場がない。

ーー まあ問屋仕事だけやってれば、自分の時間もないから、そういう商品開発もなかなかできない?

だけど今はもう、仕事がないから、いくらでも時間はある。

ーー じゃあチャンスと言えばチャンスなんですね。

だから木曽漆器祭に職人の店を二つ作るんです。そこの公園に一つと、橋のところに集会所があるんです。そこを職人の店として、職人衆が売るんです。

ーー それは木曽漆器独自の?

そうです。これは全部もう木曽漆器です。

ーー 例えば大学が、デザインを考えますと、で、職人さん、例えば北原さん、こういうのをお願いします、っていって、で、どっかで売りませんかという話になった場合は、そういう個人的なやりかたってのはできるんですか?

できますね。いくらでも。ただ、手作りってことになると、全く同じ物は出来ないってことになりますね。吹き付けなら出来ますけど。

ーー いや、だからむしろ同じ物が出来ない面白さ。

それはいくらでもできますね。そういう開発したら、何しろ漆だって数が出る物開発する事が一番難しいんですよね。今は。

ーー そういう取り組みは今迄ここではあったんですか?

ないです。ええ。だから先ほどもお話しした、ナショナルにしても、あのー、資生堂にしてもSEIKO社にしてもあったんですけど、それは企業としてはうるしは通らない。

ーー 均一でないとだめだと。

ええ。私釣り竿もやったんですよ。だけど、どうしてもうまくいかないんです。その、ミクロンの世界ってのは漆では絶対できないんですね。こうやって竿をはめるでしょ?はまらなくなっちゃうんですよ。漆が厚すぎて。それを今度は、ダイワの方では、もとを細く作らなきゃいけんでしょ、でも、一回塗るっきりにしても、全部違うから、きちっとはまらない。だめでしたね。何本もやったけど。桐の箱入れて、漆塗り。十万とか何十万とか。だけどだめだったね。このはめるとこが。つなぎ目がだめでした。で、カーボンにしてもね、あの先っぽのあんな細いやつ、漆塗っても絶対漆ってポキってならないんですよ。漆ってのは弾力に対しては一番強いんです。塗料の中で。乾くとでもピッと割れちゃうんですよ。それはもう、漆にはかなわないんですよ。

ーー 最後の質問ですが、うるしの講習会などを継続していくことで、なにか平沢にとって良いことってあるでしょうか?

平沢にとって良いことってのは、それで誰かが後継者になってくれればいいということですかね。

 


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