ーーまず、おみやげについてお聞かせ下さい。
やっぱり、おみやげものを売るっていうのは屋台なんかも同じでしょうけど、一番なんかこう初歩的っていうか非常にベーシックな経済活動っていうか、来た人に物を売って帰るとか、屋台で物を売って、みたいなものですけど、そういうものは直島の中では必要なかったんですよね。皆さん工場の工員ですから、商売しなくちゃいけないって人があまりいなくて、今でもなかなかそのものが定着しないっていうのは、商売をして、お金を稼がなきゃいけないような人があまりいない。っていうのが第一。自営業者って非常に少ないんですよね。
商売も、コミュニティを形成するうえで最小限必要なものになっていってますから、今それくらいの商売しかないですよね。
プラスαとしての商売、観光業っていうのは、今までも必要とされてきてなかったし、それだけのマーケットが無かったんでしょうね。で、今マーケットが出来つつある状況の中で、おみやげものが出て来る可能性が出てきてるっていうのがひとつあって、もうひとつは、おみやげものってなんかこう、買ってもらうっていう側面と、なんか持って帰ってよみたいな、こちら側からあげたいというか、買ってもらいたいというか、直島の何かを持って帰ってもらいたいっていう思いから出て来る面もあるんだと思うんですね。で、そういうもので町長あたりの発想としては直島のおみやげもの開発、観光の中でやっぱりものを買うっていうことは重要な楽しみですからそういうものもサービスとしてのおみやげもの開発みたいなことを常に考えているんですけど、なかなか片一方では経済的な論理から言うと、そこまでして開発をしてリスクを負うっていう環境があるもんですから、出てこない。もう一つはさっき言ったみたいにマーケットとしてもギリギリのところでやっても商売として成り立つかどうかみんなが踏ん切りつかないっていうことがある。
そういう原因でなかなか出て来てないんだと思うんですよ。
今、直島に4、5万人の人が来てますから。千円づづ買ってもらっても五千万ですよね。五千万のマーケットっていうのがどうかっていう話ですよね。マーケットとして見た時に。もうひとつは海苔も原料供給ですよね、ただ、北側の三菱も基本的には最終製品を作っていないんですよね。原料、金とか銅とかですから、これもなかなか商売になりませんよね。直島は結構、金っていうのはアピールするんですけど、悲しいかな単価が高いっていうことと、それから金が持ってるイメージと、今の多くの人の直島に対するイメージって微妙に合わないんじゃないかな、と私は思うんですね。金の名刺もらってもねぇ。自分の名刺としてもらっても見せるだけなんですよ。
ーーそれをあげるんですよ。そしてもらった人は直島に行って金の名刺を買って帰る。みたいに。
なるほどね。多くの人が金の名刺を直島に買いに行くわけですね。
そういう仕掛けが出来たらいいでしょうね。今は金の名刺を持ってる人は見せるだけですからね。こんなんがあるんですよって。でもそれって使い道としていかがなものかって思って。あげるなら確かにいいでしょうけどね。
ここに今来てる比較的若い人にとっては、記念品の為の記念品みたいなものってあんまり思わないんですよね。どっちかっていうと実用というか、やっぱりそこの地域だからこそ残っている伝統的な技術とか、他には無い素晴らしい技術の商品みたいなものがあれば、もうおみやげというよりは何かそこにしかない商品ですよね。それを手にするみたいな感覚はあっても、おみやげものと言った途端に、それをすごく簡略化した、ミニチュア版ではないですけど、そういうものが世の中には多いような気がして、本物っていうものとは違うな。おみやげもの版みたいな感じはありますよね。で、直島でこれだけ若い人が来ていても、そんなにおみやげもの云々っていうのが言われないのは、例えばちゃんとしたカタログとか、アートのものっていうのはきちんと作り込んでますから、そういうものが彼らにとっては直島で手にしたものっていう認識が多分あると思うんです。
世間で言うおみやげもの屋で買うものっていうものに対しては、今直島に来ているような方々が必ずしも欲しているかっていうのはまた別ですね。町長なんかは人が来たら必ずおみやげものって必要じゃないかと言うんですけど。以外とそんなものをそんなに欲してなかったりするような気もしますね。
ーーおみやげものって本当に必要なんでしょうか?
何処へ行っても同じようなみやげものばっかりですよね。で、そんなものをこれ以上作り続けるのは、何処へ行ってもよく似た美術がいっぱいあって、それを消費しているのと同じ構図だと思うんですよね。
そうですね
ーーで、直島の特徴的なのは、直島にある作家の作品とかは他所にもあるんです。でも直島で見たいということがあるんです。
そうですね。これは秋本も言ってたと思うんですが、やはり同じことを私共の福武なんかも言ってますけども、やっぱり瀬戸内海のこの景色とかこの建物とこの環境とアートの関係みたいなものを考えながら、本当におっしゃる通り草間の作品なんて最近何処にでもあると言うけれど、でもやっぱり何処に置くと、ここにしかないものになるかっていう風な事を考えています。そういう意味では直島の作品一点一点はそういう思いを込めて展示してたり制作をしてるという事を考えると、おみやげものが本当にね、そういう何処にでもあるものが転がる必要があるかっていうことですね。だから、そういう意味ではミュージアムグッズと言われるものも、お恥ずかしい話ですけど、ほとんど絵はがきとカタログぐらいしか無くて、でもどこかでそれでいいんじゃないかという思いもあったりとか。
ーー私はこう見たという事の代弁者としておみやげがあるわけで、それだとすると若い人たちにとって画像をプリントアウトするための金箔のはがきとか銀箔のはがきのようなものをこちらがデザインすると。ベースは直島がすべてデザインするんです、イメージは来た人が自分で焼き付けなさい。というような形でプリントアウト用紙を作るとか。
それはいいかもしれませんね。
そういう直島のおみやげもの開発って言ったときに、私たちが考えるものと、直島の行政的なことを考えると、距離感は大分ありますよ。やっぱりどうしてもベタなおみやげも楽しい時は楽しいじゃないですか。かえって雑多なものがワッとある楽しさといったものもあるので、そういうものも島の中にあってもいいかなと我々は思うんです。ただそれが私たちの敷地にある必要は無くて、島の一要素としてはそれがあってもいいのかなと思うんですよね。ただそれすら直島は無いので、これからひょっとしたらその辺に出て行く可能性はあるんですけども。あんまり商売っ気がないんですよ。直島の方々は。やっぱりそれぞれの人が自由に出来る面もあるかもしれません。ただ、あんまり著名なおみやげものとかがあると、そこに行ったらそれ買わなきゃ、みたいな話になって来る人のイメージを左右させちゃうかもしれないので。