わたしたちの身の回りには虚像を利用した空間を数多く見ることができますが、それらは何を意味しているのでしょうか。
鏡像による空間の操作としては二面以上の鏡の相互写り込みによる無限の創出や、鏡面への景色などの写し込みによる空間の移動が考えられますが、これらはいずれも空間の視覚的な拡張を目論んだものです。
また、空間をうつすということでは、移築や引き屋など本当に移してしまう方法もあります。この場合、動くとは思えないものが移動するということ自体が意味を持っている訳で、移動によって実際に得られることは二次的なものとなり、巨大な扉や回転する壁なども同じ表情を持っていると考えられます。つまり実際に動かさなくても可動だと言うだけで、その空間は拡張されるのです。
さらに、元となる空間を意味付けてそれを延長する「写し」、「引用」という方法もあります。両者とも元となる母空間を複写するのですが、前者においては母空間の持つ意味を学んでそのまま受け継ごうとするのに対し、後者では母空間の持つ意味は断ち切って消費しようとする意図を持っているように思います。だからわたしたちがそんな拡張された空間を読むには、その元となっている空間の意味を見通すだけの知が要求されるのです。
うつすことによって空間の意味は変わっていきます。そこでわたしたちが考えるべきはうつしが可能となるその条件、そしてわたしたちがそれを求める理由だと思います。
京都市左京区修学院(写真:加藤聖子) |