自然の植物や動物はすべて、生命を持つ有機体である。そしてそのかたちの特徴は細胞と遺伝子を持ち、成長から死滅へのプログラムを自分の体内に組み込んでいることである。かたちをつくるのに何の雛型も必要ない。
そしてすべての有機体は循環していく。生から死へ、動物から植物へ、植物から動物へという、食物連鎖によって生態系が巧妙につくられている。土壌中にはバクテリアが無数にいて、有機物を分解する。その過程では、適度な温度と、水の循環性が重要な働きをしている。水を使った代謝機能が生命組織の根源なのである。水に必要な物質を溶かし込み循環する。この水が0℃で固体となり100℃で蒸発するというあまりにも不思議な現象が、この地球を生命の星にしている。
かつて、日本人は、山や水や木や石や風に神が宿っていると素朴に信じてきた。水のあるところに人は住みつき、水田で稲を栽培してきた。日本は四囲を海に囲まれ豊かな降雨による水の相に恵まれてきた。亜熱帯ともいえる夏の高温は稲作に最適であった。しかも水田稲作が連作障害とは無縁であったことが、稲が主要農作物であり続けてきた最大の理由である。それでも変動する自然に対して、用水路や溜池をつくり、備えてきた。今もある農山村の景観構造はこういった自然の一部としての人間存在のかたちをあらわしている。
また、大自然の持つ苛酷さに対しては、締観的従順さを持ち、かつ恵みゆえに自然をうやまい、あがめ、畏れ、祈念してきたのである。大陸とは比較にならないほど、山あり谷ありの地形や、気候の多様性がコンパクトな日本列島に凝縮されている。日本列島そのものが、地球の縮図だともいえよう。日本庭園は、この島国の自然の風景を縮景的につくりだしている。こんなに特殊で豊かな地との絆を、私たちは心してつないでいかねばならない。
(上)豊作を願って水田の脇に建てられた田の神。 自然に対する感謝の気持ちをかたちに するとこのようになる
(宮崎県高崎町)
(中)農山村の景観
(下)空を映す手水鉢(高山・日下部邸)
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