地平線、夕日に輝く水平線、国境線など、線のかたちは、線引きされた、あるいは限られた2つの異なった空間を区別することを意味する。しかし実体はない。一方、日常的に紙の上の線は、外形線として物体のシルエットや面のかたちを、図と地の区別として表現する。
造形としての線は、それが鉛筆であっても筆圧によって濃くも薄くもなるし、スピードによっては細くも太くもなる。筆記体による文字の美しさはこのことによる。まして、筆と墨という道具は最も繊細なコントロールを要求される線である。描く線の表情はさらに多様なものになり、太い細い線、直線曲線、幾何学的線、優美な線、光る線、消えていく線、導く線などなど。ドットという点の集積による印字とは基本的に異なる。描くことを職業とする人はこのことをよく知っていて、技巧をこらす。
また、生活空間の中では、日本的な意匠として格子という線の造形もあげられよう。風土的に木の文化を育んできた日本では、建築の木構造としての柱や梁も線材であり、土壁以外の光や風を通す壁面の構成に、この格子を用いてきた。防犯も兼ね備えた目のつまった頑丈な格子や、繊細な欄間障子の格子、縦横の中に斜めの線や曲線を加えたけれん味のある格子、木を使うことによって進化した格子の意匠は日本人の琴線に触れてきた。深い軒下空間から格子をすかして障子があり、その奥に柱と長押、直交する黒い小屋組があるといった伝統的空間意匠は、線を基調としながらディテールから構造にいたるまで、線のオーケストレーションといってもよい美意識がある。
(上)坂本竜馬が隠れ家としたことでも知られる伏見の船宿寺田屋の表構え
(下)日下部邸小屋組
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