【学習のポイント】テキスト科目「情報デザイン演習II-4(イ)イラストレーション4」
今回は、「イラストレーションの内と外」の課題を進めるうえで、どのような点に注意しながら進めるべきか解説をします。この課題では、キャンパスや画用紙などに描かれたイラストレーションの世界(内側)と、我々が実際に生きている現実世界(外側)を、イラストレーションによって結びつけます。
ただ2つの世界を並べて描けば良いわけではなく、もうひとつの要素が関わることによって「イラストレーションが現実化し、現実がイラストレーション化するような新たなイラストレーション」を表現しなければなりません。作品が面白くなるカギは、実は絵を描く以前にあります。ここでは、ストーリーを組み立てるために必要となる、構想部分に重点を置いて考えてみます。
2つの世界を具体的に想像する。
内側の世界と外側の世界が相互に影響しあう展開とするために、まずはじめにそれぞれの世界の状況を明確に設定します。変化をみせるためには、変化する前のストーリーを受け手としっかり共有しておく必要があるからです。
物語を構想する際には、それぞれの世界の舞台や背景、登場するものの関係性をできるだけ具体的にイメージしてください。登場人物は?その人は何をしている人?そこには何があるの?2つの世界の境目はどうなっているの?ストーリーの展開の本筋とは直接関係がない事柄でも、背景や関係性をしっかりと意識することによって物語のリアリティや奥行きはより深いものになります。
浦島太郎のストーリーを例に挙げます。このお伽噺では、海の底にある竜宮城と、太郎という男が住んでいる地上の村という2つの世界が登場します。竜宮城には乙姫が鯛や平目とともに御殿に住んでおり、太郎は漁師という設定です。ある日「太郎が亀を助ける」という事件によって、それまで並列に存在していた2つの世界に繋がりが発生し物語が展開します。もし太郎が農業を営んでいたら、海辺にいる確率がぐんと低くなるため亀を助けられなかったかもしれません。
おかしな話だと思われるかもしれませんが、ではなぜ漁師でなくてはならなかったのでしょうか。それは、リアリティが損なわれるからです。現代に生きる我々読み手にとっては、浦島太郎が漁師であるのは当然と思いがちですが、ストーリーを構想する段階であればその他の選択肢もあったのではないでしょうか。
この課題を難しいと感じてしまう方々の多くは、内側と外側の範囲を広くとりすぎてしまい、場面の詳細な設定が決められないままストーリーを展開させてしまうことがあげられます。まずは「海の世界と陸の世界のはなし」といったような大枠を決め、徐々に登場人物やそれぞれの世界のルールを細かく決め、それから物語を展開させるといった方法をおすすめします。アイデアをストーリーに展開させる際には、できるだけシンプルなパーツから組み立て、それをストーリーに合わせて肉付けしていくように心がけてください。
フレームをどう捉えてどのようにみせるか。
この課題では、フレームの解釈も重要です。フレームと聞くと「額縁」や「枠」という言葉に捕らわれてしまいますが、もっと定義を広く考えてみましょう。
なぜ2つの世界は分かれているのか。隔てているものは何なのか。先述のように、2つの世界を具体的に想像することによって、ストーリーの中における2つの世界の境界もはっきりと見えてきます。浦島太郎の物語の中であれば、「海」や「水」といった要素もフレームと解釈できるのかもしれません。キャンパスや画用紙と現実世界の間にあるフレームを見つめ直し、どう捉えるかによって物語全体の展開が大きく変わります。
また、フレームが明確になることによって非現実と現実を結びつける方法も見えてくるのではないでしょうか。浦島太郎では海の世界と陸の世界を繋ぐ、「亀」がこの役割を担っています。ほかの映画や小説、漫画の物語でも、主人公が変身したり事件が起こったり、なにかキッカケがあって2つの世界に関係が発生する展開はよくあります。それらを参考に、このキッカケの部分もリアリティが感じられるような面白いアイデアをストーリーまで膨らませてみてください。
このように言葉の印象に捕らわれることなく、独自に設定したフレームを物語のなかで明確に描くことによって、ストーリー展開はよりいきいきとしたものになるでしょう。
映像か。ビジュアルブックか。
アウトプットするメディアの選択は、ストーリー構想がある程度できてきた段階で選択しましょう。映像もビジュアルブックも、イラストレーションの連続という点はおなじですが、それぞれのメディアが持つ特性が異なるため、同じストーリーでも出来上がりの印象が全く変わってきます。ご自身の描いた物語をみせるのに、最も相応しいと思う表現手法を選択して制作に取り組んでみてください。
制作を進めるうえで参考となれば嬉しいです。皆さんの作品を楽しみにしています。
仙石彬人