【学習のポイント】テキスト科目「デザイン基礎2(情報デザイン)(共)【自叙伝】~文章表現と記号遊戯~」
「かたちとことば」
京都の鷹峯に、源光庵という小さなお寺があります。ここは私が時折座禅会に参加している所ですが、このコラムが掲載される11月は、初冬の紅葉が美しい季節かもしれません。JR東海「そうだ京都、行こう。」のポスタのロケ地にもなった名勝です。さてこのお寺には、有名な「悟りの窓と迷いの窓」という美しい造作を見ることができます。大きな丸と矩形の一対が大胆に穿たれており、観光客の撮影スポットとしても有名です。禅の究極である悟りの境涯が「円」に、そしてわたしたち凡夫のありようは「四角」の形に象徴されているそうです。
一般的に、円満具足という言葉からは人格の完成や至高を、また四角四面という言葉には、融通の効かない堅物といった未完の状態を表します。仙厓和尚の、ただ●▲■(丸、三角、四角)のみが描かれた禅画をご覧になったことがおありかもしれません。添えられた自賛「これくうて茶のめ」というのも意味深長で楽しいものですが、間にある三角の形を、座禅する人の姿に見立てる人もいます。シンプルな正三角形のかたちから、メディテーションの相がイメージされるという、奥深い見識です。他方、他力門の浄土教では、西方に沈む真っ赤な夕日を観音力と称します。また様々な如来や菩薩像にある丸い後光は、慈悲深くたおやかに灯る。やはり円とは崇高なイメージに直截するものなのかもしれません。思想家の柳宗悦は、当時の辺境であった朝鮮、沖縄、東北に埋もれていた名も無き造形の様々を、ていねいに救いあげる作業を行いました。その物言わぬ言葉を紡いでゆく実践は「美の法門」という思想にまで集約します。
全ての造形は、必ず形態を伴います。そして形のうしろがわには意識・無意識を問わず、必ず意味が存在しています。先の柳に倣って言うと、デザインの活動とは「良き暮らし」への美的な提案だともいえましょう。私たちの学ぶ情報デザインとは、視覚を中心としたありとあらゆる感覚を用い、その意図を顕現化してゆく作業になります。「デザイン基礎2(情報デザイン)(共)」のテキスト課題「自叙伝」では、これから始まる情報デザインの学びの手はじめとして、文章と図像との関係を各々の足下から考察していただく機会を設けました。それは記憶の糸を丹念に手繰り、縦に横にと編み上げてゆく空想のタペストリーになることでしょう。
この短文を、新緑の五月の中に記しています。ちょうど青空に清々しく白月が浮かびました。昼間に見る月の姿には、いまだ不明瞭だったアイデアが明晰なイメージになったかのような「あらわれ」の美を思います。美しい実践を、期待しています。
岩崎正嗣
源光庵本堂(悟りの窓、迷いの窓)