【学習のポイント】テキスト科目「情報デザイン基礎2(共)物語の図解」

この課題は2018年4月から開始しましたが、提出作品では『昆布とろの吸い物』『科学者とあたま』が多く『桃太郎』は少ない傾向にあります。この多い・少ない状況と評価は全く関係しないことをあらかじめお断りしておきますが、現象として興味深く思っています。

シラバスでは「掌編小説」と一括りにしていますが、『昆布とろの吸い物』『科学者とあたま』はジャンルで言うと随筆であり、端的な文章表現と構造は一見図解しやすく思えます。前者は文字数も多くないため読んでいて複雑化しにくいのですが、極めて簡潔で優れた文章ということは多くの情報が周到に整理された言葉が使われ、図化するための情報も必要最小限に留められていると考えられます。その整理された文章の通りに図化してしまうとビジュアル表現として、寂しい・そっけないものになってしまう可能性もあるわけです。両氏の文章表現はさすがと感じ入りつつも、シラバス「学習のポイント」に「『素早くわかりやすく伝える』という機能性と『魅力的に伝える』という表現力を備えた視覚表現」とある通り、この簡潔で明瞭な文章を魅力あるビジュアル表現にするための視点の転換や発想にも力を入れる必要はあります。この点を忘れないでください。

それでは『桃太郎』の方が取り組みやすいのかというと、これはこれで桃太郎の成長やら登場人物の多さやらフィクションであるが故の非現実な進行について、情報を整理し切り口を定めることにある程度の時間が必要です。読んでいると小さな頃には思いもしなかった解釈なども生まれ、図解への可能性は広がる一方になるでしょう。いずれにしても、作品制作は小説を選ぶ段階から始まっています。タイトルや文字数を見て安易に判断するのではなく、図化することを前提にそれぞれの作品を熟読し具体的イメージを思い描いてみましょう。

また、「図解」という意味を理解し、挿絵にならないように注意してください。これについてはシラバスの「学習のポイント」を再読、参考文献なども確認してみましょう。

最後に、この科目で扱っている『桃太郎』は楠山正雄版ですが、芥川龍之介版もあります(インターネットの電子図書館「青空文庫」で読めます)。同じ材料なのに短調のメロディが聴こえてくるこの手法、自分の中にある何かが揺らぎませんか。これぞ解釈の妙技です。

河野綾