【卒業生からのメッセージ】山口元希さん(2016年度卒業生)

デザインに興味はあったが「自分には無理だろう」と踏み出せずにいた 40歳の私が、3年後に京都造形芸術大学通信教育部を卒業、卒業制作の一部が『日本タイポグラフィ年鑑2018』の学生部門に入選することができた。この機会に、入学してすぐの頃を振り返り「やる気スイッチ」を押すきっかけとなった話ができたらと思う。

今思えば、私がラッキーだったのは「絶望」するのが早かったことだ。なんの経験もなくデザインを学びに大学に入った私は、恥ずかしながら「自分にはセンスがあり、なんとかなる」という「大きな勘違い」をしていた。だが幸運なことに私と同じ年に入学した同級生には、美術大学出身者やデザインの経験者、専門的な知識を備えクリエイティブな仕事に携わっている人など経験やスキルが違いすぎる人たちがいたのだ。当然、最初の授業ですぐに圧倒的な挫折を味わうことになるのだが、この経験によって「配られたカードでどう戦うか」という考え方が身に付いたように思う。今だから言えるのだが、この時は本当に落ち込み、動けなくなってしまっていたので、自分を「料理人」に置き換え、努力する方向性やポジショニングを他人事のように考えることにしていた。「割烹で何十年も日本食と向き合い和食を極めた料理人、フランスの老舗レストランの有名シェフの下で修行してきたコックさんらに混じって料理経験がない自分が同じお客の舌を唸らせるには ?」と言う問いを立て「誰よりもお客さんのことを考え、食材を知り尽くし、誰も味わったことのない創作料理を編み出していくしかない」という解にたどり着いた。その想いは今でも変わっていない。

最後に、「感じる」ということは誰にでもでき、たくさん良質なものを見ればセンスや感覚は養われる。しかし「考える」ということは自分が主体となって他者に「伝える」工夫を生み出すもっとも大切な行為だ。そこだけは手を抜かずこれからもやって行きたいと思う。

『日本タイポグラフィ年鑑2018』入選作品「History’s Shadow 【黒(色) 歴史】」2017年(向かって本人右)