【教員コラム】作品制作のための思考トレーニング—仙石彬人
制作やアイディアを出す際のアドバイスとして、「アタマを柔らかくして構想しましょう」「柔軟な発想で考えてみましょう」などと言われます。では、具体的にどうすればアタマは柔らかくなるのでしょうか。今回は、作品制作における思考トレーニングの基礎をご紹介します。
まず、作品やデザイン制作のプロセスは、大きく以下の3つの段階に分けられます。
1.アイディア出し
モチーフを様々な角度から観察し、なるべくたくさんの情報を引き出しましょう。その際に、シンプルな言葉で考えることがポイントです。
2.構想・発展・展開
いかにモチーフの本質を捉えられるかが、面白い展開を生むカギとなります。関連するアイディアや言葉を紐付けて、想像力をフルに使いながら肉付けをしていきましょう。
3.表現方法・媒体の模索
最後に、適切なメディア・表現方法を選択します。表現方法ありきで進めるよりも「こんな作品にしたい! 」というコンセプトを展開できる表現方法を選択する方が説得力ある表現につながります。相手に分かりやすく提示することを忘れないように。
以上のステップを経て作品を完成させるわけですが、どの段階においても柔軟な思考は必要です。しかし、制作する段階になって急にアタマが柔らかくなるものではありません。アスリートと同じように、日々トレーニングして鍛えることが大切です。
アイディアや構想の幅を広げるためには、日常的にいろいろな物事に触れ、情報の蓄え=インプットを増やしておく必要があります。また、対象を観てよく考え、物事の本質を捉える力は、毎日の生活の中で少しずつ養うものです。日常生活の中では、以下のことに心がけてみましょう。
●生活の中での発見
普段の生活の中にこそ、作品に繋がるアイディアはたくさんあります。皆さんが実際に経験した出来事には説得力があるからです。日々の生活の中で、様々な角度から対象を見つめる癖をつけましょう。
まず、自分自身の視点を自覚することが目標です。当たり前だと思っている物事に対しても、なぜ? なんでだろう? と疑問を持つことによって、モノと向き合う角度に変化が起こります。難しく考えすぎずシンプルな思考を心がけましょう。新しいアイディアやひらめきは、急に舞い降りてきます。こまめにメモを取ることを忘れずに。
●ラフスケッチやドローイングの目的
ラフスケッチやドローイングは、作品とは別のものです。頭の中にあるもやもやとしたイメージを、カタチや言葉としてアウトプットするための手段です。自分がモチーフとしている対象を客観的に観ることを目的としています。失敗を恐れず、たくさん描きましょう。マインドマップの作成や、関連する言葉を書き出したメモも有効です。
●作品を鑑賞する際に
どのような作品・表現でも構いません。広く様々なものを観ることで、アウトプットの選択肢の幅も広がります。美術館やギャラリーだけでなくパフォーマンスやコンサートなど、それぞれの現場で本物を観ることをお勧めします。ただ観賞するのではなく、作家の視点を意識して作品を読み解くことが重要です。まずは、自分がなぜその作品に魅力を感じるのか、理由を説明できるようになりましょう。「好き/嫌い」ではなく、なぜ「好きなのか/嫌いなのか」を第三者に説明することで、自分が見ている視点が自ずと見えて来るはずです。
今回はあくまで入門として書きましたが、ここで挙げた方法はどんな作品制作や課題にも応用できるはずです。物事を見る目を養うことに、終わりはありません。そのためには、何よりも日常的にこれらのことを意識して生活すること、そして継続することが重要です。仕事や勉強の合間など、少しずつでもいいので時間を割いて作品制作のための思考トレーニングに励んでみてください。
皆さん自身の視点が盛り込まれていることが、作品のオリジナリティや強さに繋がります。また、ご自身のものの見方や価値観が変わると世界が違ったものに見えてくるはずです。
今年度より京都開催の「放課後相談会」を担当しています。この『雲母』がお手元に届く頃には今年度の相談会も残りわずかですが、わからないこと、学習上のお悩みなど直接相談できる機会です。引き続きこれからもお待ちしています!
仙石彬人(教員)